文体の舵をとれ〈練習問題①〉文はうきうきと

問一:一段落~一ページで、声に出して読むための語りの文を書いてみよう。その際、オノマトペ、頭韻、繰り返し表現、リズムの効果、造語や自作の名称、方言など、ひびきとして効果があるものは何でも好きに使っていい──ただし脚韻や韻律は使用不可。

 どうやらまぼろしではなかった、というのも空間にぽっかり空いた穴のことだ。そこから無限とも思える小型犬が飛び出して、遊んで遊んでと吠えながらおれの部屋をぎゅうぎゅうに埋めつくしたのだ。チワワにシーズー、ポメ、パグ、ペキ。トイプードルとなんか細いやつ。なんだこれはと呆気にとられているうちに彼らはトタタと駆け回り、おれの顔をうれしそうに舐めに舐め、家中にマーキングするしまつだ。
 こういう場合に連絡すべきは警察なのか、保健所なのか。いや待て、そもそも信じてもらえるか。頭がイカれたのかと心配されるくらいならまだマシで、最悪なにかの罪に問われはしないか、と考えている間にも小型犬は増え続ける。なんとかテリアとほほえみをたたえる白いモップ。おれは無限小型犬愛護法違反でおそらく実刑判決を受けるだろう。今日がシャバで過ごす最後の日になる。
 いっそ捕まるならば、とおれは考える。小型犬の湧き出る穴に、自ら飛び込んでみるのはどうだろう。さっそく犬の荒波をかき分けかき分け、黒々広がるその穴を覗き込んではみたものの、はたして向こう側など見えるはずもない。
 そのとき玄関のチャイムが不吉に鳴り響いた。警察に違いない。もはや一刻の猶予も許されない、ままよとおれは穴に飛び込み、終わりのない落下に身を委ねた。意識が途絶える最後の瞬間に思い浮かべたのは、子どものころに飼っていたラブラドールレトリバーのことだった。

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