文体の舵をとれ〈練習問題③〉長短どちらも

問一:一段落(二〇〇~三〇〇文字)の語りを、十五字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。各文には主語(主部)と述語(述部)が必須。

 たしかに私はおまえを殺したのだ。その柔らかな喉にペンを突き立てて。私の身体を支配する激情に身を任せて。力の限り引き裂いたはずなのだ。それなのに今日もおまえは生きている。いつものバス停で乗り込んでくる。いつもの席で文庫本を読んでいる。時おりちいさなあくびをしてみせる。私がバスを降りるとおまえもバスを降りる。どうしようもなく怒りが湧いてくる。それだから殺したはずだったのに。おまえはまた私の後ろをついてくる。うすら笑いを浮かべながら。ペンギンのようにペタペタとした歩みで。あくまでも私を愚弄するつもりか。それならばと路地裏に誘い込む。確実に喉をひと突きにする。真っ黒な血液が噴出して止まらない。今度こそ、今度こそ私はやったのだ。倒れたおまえは私の手になにか押しつける。私は興奮を鎮めながらそれを見る。たいへんよくできました。はなまるのスタンプが押されている。

問二:半~一ページの語りを、七〇〇文字に達するまで一文で執筆すること。

 スラムを根城とするアイアンクラッドなるギャングチームがおじさんの所有する地下キャベツ畑を今晩襲撃する予定である、そう教えてくれたのは斥候役の下っ端で、とっ捕まえてひん剥いたところゲロゲロと計画を吐いたので準備は万全であったのだ、そうとは知らずにのこのことやって来たギャングの一団をまず文字通りに迎え撃つのはセキュリティタレットによる7.62ミリの鉛の雨で、前衛部隊は体じゅうを撃ち抜かれてひとたまりもなく壊滅状態、さらには大混乱に陥って逃げ惑う後続部隊が踏み抜くは地雷、地雷、地雷の数々、ギャングの脚だけでなくキャベツまで吹き飛ばしてしまったが必要経費だとおじさんも笑って許してくれるだろう、さて残ったのはギャングのリーダーたる屈強な男で、豊富な戦闘経験と偏執的ともいえる用心深さで何度も死線をくぐり抜けてきたというのは伊達ではなく、仲間の死体を盾にして敵ながら見事なハッキングの手腕ですばやくタレットと地雷を無効化したのものだから、おそらく神経ジャックやグリッチ攻撃は試すだけ時間の無駄であろう、覚悟を決めたぼくは腕にマンティスブレードを装着し、ギャングの背後をついて一刀のもとにその首を切断したのだが、それこそキャベツのように畑にゴロリと転がったギャングの首がやおら喋り出すことには、おれたちはただキャベツが大好きだったんだ、いまではこんな身体になってしまったが、それでも昔のように腹いっぱい新鮮なキャベツを食ってみたかっただけなんだと、そう言い残して絶命したギャングとその仲間たちをキャベツ畑に埋葬し終え、ふうと一息ついてなんとなしにひと玉収穫したキャベツにかじりついてみたところ、みずみずしさなんてものは感じられるはずもなく、ぽろぽろしたゴムが噛むごとに口の中で増殖するみたいな食べごたえ、吐き気を催すほどに不味いそれをぼくは畑じゅう踏み潰して周り、ギャングは撃退したがキャベツは守りきることができなかったとおじさんに報告するのだった。

www.filmart.co.jp